MOSFETのON抵抗

MOSFETの特性の例(参考)

(新電元工業製)

品名

耐圧定格電流ON抵抗
P60B6SN

60V

60A 5.3mΩ

P4B60HP2

600V

4A

1.5Ω

同じパッケージの低耐圧MOSFETと高耐圧MOSFETのON抵抗の比較です。
チップの大きさはほぼ同じですが、これだけON抵抗に差があります。

ダイオードの特性の例(参考)

(新電元工業製)

品名

耐圧定格電流VF
D1FS6A (SBD)

60V

2.6A 0.57V

D1F60A (一般Di)

600V

1.2A

0.97V

ダイオードのVFはMOSFETのON抵抗ほど耐圧に依存しません。

ON抵抗とは

ON抵抗(RDS(ON))はチャネル抵抗にその他N層の抵抗やワイヤー、リードフレームなどの抵抗を含めたD端子からS端子までの抵抗のことを表しています。

  1. S端子からS電極までのワイヤーやリードフレームの抵抗
  2. チャネル抵抗
  3. ドリフト抵抗
  4. シリコン基板抵抗
  5. チップ裏面電極からD端子までのハンダやリードフレームの抵抗

ON抵抗の内訳

  1. S電極からS端子までのワイヤーやリードフレームの抵抗
  2. チャネル抵抗
  3. ドリフト抵抗 ⇒高耐圧と低耐圧ではここが大きく違う
  4. シリコン基板抵抗
  5. チップ裏面からD端子までのハンダやリードフレームの抵抗

高耐圧MOSFETと低耐圧MOSFETのドリフト層の違い

D-S間に電圧を掛けると、N-層に電圧に応じた空乏層が広がります。
MOSFETの耐圧はN-層に広がる空乏層の広さ(厚さ)で決まります。

高耐圧MOSFET

低耐圧MOSFET

空乏層が広がりやすいように作られているのでN-層(ドリフト層)は厚く、不純物濃度が低い。
⇒電流を流したい時、抵抗値が高い

空乏層は少し広がればよいのでN-層(ドリフト層)は薄く、不純物濃度が高い。
⇒電流を流したい時、抵抗値が低い

このことから、必要な耐圧によって「これ以上下がらない抵抗値」があることが分かります。

ON抵抗を小さくするためには

  1. セルをたくさん集めて1つのチップにする
    ⇒基本的にはこの考え方ですが、ただたくさん集めただけではチップサイズが大きくなってしまい、コストが上がってしまいます。
  2. 1つのセルをできるだけ小さく作る
    ⇒「チャネル」の長さを小さくすれば、単一セルあたりのチャネル抵抗が下がり、同じチップ面積にたくさんのセルを詰め込むことができます。
  3. セルを並べる「向き」を工夫する
    ⇒これがトレンチ技術。「溝を掘る」特殊な工程が必要になります。
  4. チャネル以外の部分の抵抗を下げる
    ⇒耐圧を出す「ドリフト層」の抵抗低減、ワイヤーから接続子の採用、リードフレームの厚みや端子の太さを増やして抵抗を下げるなどの工夫が行われています。

ON抵抗を下げるための主な技術

効果の大きさ

内容と狙い

低耐圧
MOSFET

高耐圧
MOSFET

プロセスの微細化

半導体加工技術の基本。設備の能力。

チャネル抵抗の低減、セルの小型化。

トレンチゲート

溝を掘って、ゲートを埋め込む技術。
低耐圧MOSFETでは主流。セルの密度向上。

クリップ(接続子)

ワイヤーの代わりに金属導体を用いて接続。

抵抗だけでなく、インダクタンスも低減。

Super Junction

×

ドリフト層にPNのストライプ構造を作る。
旧来の理論限界を超えてON抵抗を低減。

Wide Band Gap

SiCやGaNなどの新素材の導入。
Siでは不可能だった特性を実現。

Super Junction や Wide Band Gap は高耐圧MOSFETに用いられる、ドリフト層の抵抗を低減する技術です。

ON抵抗と容量成分が回路特性に与える影響

チップサイズ大

オン抵抗・・・小
容量・・・・・大
価格・・・・・高い

チップサイズ小

オン抵抗・・・大(4倍)
容量・・・・・小(1/4)
価格・・・・・安い

チップサイズが大きいほどオン抵抗は小さくなりますが、その分容量が増えるのでスイッチングや駆動に伴う電力損失が大きくなってしまいます。
コストを度外視すれば、左図の点線のあたりが最適な性能を発揮することになります。ON抵抗が低ければいいというものではありません。

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