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脱炭素社会のキーポイント「パワーエレクトロニクス技術」の重要性

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脱炭素社会の実現のためには、これまでにない新しい設備・機器の開発や利用だけでなく、既存の機器を“より効率的に稼働させる”技術を進化させることも求められます。そのような観点から、近年では電力を変換するための技術である「パワーエレクトロニクス技術」の重要性がより増しています。

電気自動車・太陽光発電などへの対応のほか、ネットワークインフラにおける電力変換の効率化なども、脱炭素社会の実現においてはキーポイントとなるでしょう。この記事では、脱炭素に貢献するパワーエレクトロニクス技術について解説します。

【目次】

1.脱炭素とパワーエレクトロニクスの関係性

そもそも、パワーエレクトロニクスとは、電力用半導体素子を利用して「電力変換」と「制御」を行う技術を指します。脱炭素の観点から重要なことは、電力を「エネルギー」としてより効率良く利用することであり、そのためには制御効率向上の技術を進化させる必要があります。

電気を極力ロスなくエネルギーとして変換するためには、高度なパワーエレクトロニクス技術が必要とされます。特に重要なのがインバータ装置で、機器の電圧・周波数を必要に応じて変化させ、消費電力を削減・効率化するためには不可欠なものです。

例えば、送風機の風量を下げたい場合、インバータ装置がなければモータから送られる風力自体はそのままで、開閉弁などを使って調整することになるため、無駄な電力が生じてしまいます。しかし、インバータ装置を使用すれば、送風機に用いられているモータの回転速度そのものを落とすことができ、電力も節約できるのです。

2.脱炭素社会で求められるパワーエレクトロニクス

脱炭素社会を実現するにあたり、パワーエレクトロニクス技術の重要性が高まっている背景としては、次のような社会の変化が考えられます。

電気自動車の普及

自動車産業において電子制御システムの依存度が高まっており、将来的に電気自動車の大幅な普及が見込まれる中、パワーエレクトロニクスは大きな成長分野になることが予想されます。具体的には、電動機と内燃エンジンの使用が切り替わるハイブリッド自動車において特に重要性が高く、冷却装置の最適化においてもパワーエレクトロニクスは重要になるでしょう。なお、EVに関しては、モータの回転数・駆動力の高効率化・充電器の高性能化等によって、より航続距離を長くすることが求められています。

家庭用電池の普及

太陽光パネルによる発電が家庭においても可能になったことで、電気を貯めたり、必要なときに電気機器などに電気を共有したりできる家庭用電池の普及が進んでいます。太陽光発電によって得られた電気は直流で、そのまま家庭では使えないため交流に変換する必要がありますが、その際のロスを最小限にとどめるためには高度なパワーエレクトロニクスの技術が求められます。

省エネへの意識向上

国際情勢の影響等により全国的に電気料金の値上げが進む中、消費者の多くは既存の電化製品を選ぶ際に省エネを意識しているものと推察されます。よって、自社における商品開発・既存製品の改善にあたっては、パワーエレクトロニクスを考慮した技術開発がより重要性を帯びてきます。

例えば、モータはあらゆる電化製品に使用される重要な部品であり、電力消費のかなりの部分を占めています。よって、高効率モータを商品開発に採用することが多くのメーカーに求められるものと考えられます。

ネットワークインフラの重要性の高まり

IEA(国際エネルギー機関)によると、2026年のデータセンターにおける総電力消費量は1,000TWh(テラワット時)となり、2022年の推定値である460TWhの倍以上になると予測されています。

国際情勢の不安定さを鑑みると、このニュースは決して喜ばしいことではなく、将来的にはAI分野等での更なる電力消費量急増などが見込まれます。このような状況において、引き続き安定してネットワークインフラを稼働させるためには、パワーエレクトロニクスの高度化は避けて通れない課題となるでしょう。

3.脱炭素に貢献するパワーエレクトロニクス技術

パワーエレクトロニクス技術の進化は、様々な分野で脱炭素に貢献するものと考えられています。以下、具体的なケースをいくつかご紹介します。

電気自動車の充電器

近年、電気自動車普及の課題として「充電ステーションの設置件数の少なさ」や「充電時間の長さ」などが指摘されています。特に、充電時間の長さは長距離運転においてドライバーの時間を奪う一因となるため、急速充電器の出力電力を増やすことは急務と言えるでしょう。

その一方で、充電器の充電プロセスの高効率化も、充電時間を短くするポイントとなります。例えば、電圧の変換回数を減らすことにより電力損失を減らせれば、省電力化と充電時間の短縮を両立することが期待できます。

高性能インバータ

災害大国と呼ばれることもある日本では、台風・大地震・雪害といった天変地異に伴い大規模停電が起こるケースも珍しくありません。被災地の避難所などでは、家庭用コンセントと同じ電力を出力できる発電機のニーズが高い傾向にあります。

家庭用コンセントと同等の電力を出力するためには、高性能な正弦波インバータを搭載する発電機が必要です。高性能インバータを搭載した発電機は、移動販売などのビジネスやキャンプ・BBQなどのレジャーにおいても活用できるため、汎用性が高いのが特長です。

多様なニーズに応じた半導体

民生市場、産業機器市場、車載市場、情報・通信市場など、それぞれの市場の多様なニーズを満たすためには、最適な半導体を組み込む必要があります。例えば、ホームアプライアンス製品ならブリッジダイオード、産業ロボットならパワーモジュールといったように、各種製品に向いた「省エネ」や「高効率化」につながる半導体製品を選別・搭載することの重要性は、今後より高まるものと考えられます。

エネルギーの変換効率が向上すると、それだけ脱炭素にも貢献するため、搭載する半導体製品の質が、そのまま製品の質につながると言っても過言ではないでしょう。

4. 新電元のエネルギーソリューション

発電所等で作られた電力が人々のもとに届くまでには、多くのロスが発生しています。人々が電力を使用すればするほどロスも増えるため、このロスをより多く減らすことができれば、それだけ脱炭素社会に近づくことになります。新電元工業では「エネルギーの変換効率を極限まで追求することにより、人類と社会に貢献する」というミッションを掲げており、モビリティ・産業機器など多岐にわたる分野で電力ロス削減に貢献しています。

5.まとめ

画期的・魅力的な新製品が登場しても、その分だけ消費電力が増えれば、それだけ脱炭素社会の実現からは遠のくことになるでしょう。各種設備・機器の消費電力を削減できるよう、制御効率を高めるためには、高度なパワーエレクトロニクス技術が求められます。

電気自動車などの最先端分野から、私たちの生活を支えるネットワークインフラの円滑な稼働まで、幅広い分野でパワーエレクトロニクス技術の高度化が進んでいます。パワーエレクトロニクス技術の進歩なくして脱炭素社会は実現しないことを、私たちは今一度頭に入れておく必要があるのかもしれません。

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