ショットキーバリアダイオード(SBD)とは
pn接合ではなく、ある種の金属とn型半導体の接合をダイオードとして使用します。このような接合をショットキー接合といいます。ショットキーバリアダイオードは非常にVFが小さく、かつホールを使わないため非常に高速なのでその点は理想的といえますが、逆電流IRが大きいので高耐圧の素子には向きません。
順バイアス
逆バイアス
1.VFが小さい ◎
pn接合のダイオードに比べてVFが非常に小さいので、順方向の損失が小さく高効率です。
2.非常に高速 ◎
ホールをキャリアとしていないので、trrがなくスイッチングが高速です。
3.逆電流が大きい △
逆電流IRが大きいため、逆方向の損失はpnダイオードより大きくなります。
逆電流はバリアメタルの種類によって異なり、SBDは使用するバリアメタルの種類によっていくつかのタイプに分けることができます。
ダイオードの種類による静特性の違い
VFが小さいのがSBDの最大の特徴です。
ただし、IRが大きいので高耐圧のダイオードには向いていません。
ショットキーバリアダイオードの使い分け
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- VFとIRはトレードオフ
かつては低VFを重視したものが多かったので、逆電流が大きいために後述する熱暴走の問題があり、業界によってはSBDが敬遠されていました。
最近は低IRのタイプが増え、高温環境下でも安心して使用できます。
SBDの順方向損失
ダイオードの順方向に電流IFを流すと、電圧降下VFが発生して電力損失となります。
図のようにVFは負の温度特性を持っているので、高温になるほど順方向損失は小さくなります。VFは温度に対してほぼ直線的に小さくなっていきます。
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- SBDの順方向特性の例
SBDの逆方向損失
ダイオードの逆方向に電圧VRを印加すると、逆電流IRが発生して電力損失となります。
図のようにVFは正の温度特性を持っているので、高温になるほど逆方向損失は大きくなります。IRは温度に対して指数関数的に大きくなっていきます。
pnダイオードはIRが非常に小さいので問題になりませんが、SBDはIRが無視できないので、選定には注意が必要です。
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- SBDの逆方向特性の例
SBDの温度と損失の関係
順方向損失は温度が上がると直線的に減少しますが逆方向損失は指数関数的に増加します。
回路の動作条件によって温度は異なりますが、ある温度を境に損失は増加に転ずるので熱暴走を起こさないように放熱設計する必要があります。熱暴走に入ってしまうと、温度上昇が止まらなくなり最終的には破損あるいは停止に至ります。
熱暴走とは
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- 放熱の能力に余裕があり素子の損失による発熱は十分放熱されている
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- 放熱の能力の限界と素子の損失による発熱がつりあっている状態
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- 放熱の能力の限界より素子の損失による発熱が大きく放熱しきれない
熱暴走を防ぐために知っておくこと
- 熱暴走はSBDの保証温度以下でも起こる
- 熱暴走が起きてもSBDが壊れているわけではない
- 熱暴走を起こす温度は動作条件によって変わる
- 熱暴走を起こす温度は放熱条件によっても変わる
- 低VFタイプのSBDほどIRが大きいので熱暴走を起こしやすい
SBDのタイプによる熱暴走のしやすさ
スイッチング電源を想定
低VFタイプ
常温では低損失だが高温で熱暴走のリスクが大きい
低IRタイプ
常温では損失が大きいが熱暴走のリスクが小さい
超低VFといわれるタイプはTj=70℃程度でも熱暴走を起こすことがあります。一方超低IRといわれるタイプはTj=150℃でも熱暴走を起こさないものもあります。
用途による使い分け
- 逆接防止やOR接続などの通常逆電圧が発生しない用途
→超低VFタイプ、低VFタイプ - スイッチング電源などの常時逆電圧が発生する用途
→標準タイプ、低IRタイプ - 車載用など特に高温環境下での使用を想定する用途
→超低IRタイプ