ファストリカバリダイオード(FRD)とは
pn接合によるダイオードに、逆回復時間(trr)を小さくするための対策を施したダイオードで、高速ダイオードとも呼びます。
スイッチング電源などで用いる数十kHzや数百kHzなどの高周波を整流することを目的として作られたもので、一般整流ダイオードに比べてtrrが2~3桁小さくなっています。
代表的な特性
耐圧(VRM) | 600V,800V,1000Vなど高耐圧 |
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順電圧(VF) |
1.3V~3.6V程度 |
逆電流(IR) |
数µA~数十µAと非常に小さい |
逆回復時間(trr) |
数十nS~100nS程度 |
用途 |
高圧のスイッチング回路(PFCなど)の整流など |
逆回復時間を小さくするほどVFは大きくなってしまうので、用途によって最適なタイプを使い分ける必要があります。
ダイオードのリカバリ特性
電子に比べてホールの移動には時間が掛かるので、trrは「ホールが戻ってくる時間」と考えることもできます。
順電流(IF)と逆回復時間(trr)の関係
順電流が小さいとき
順電流が大きいとき
trrを改善するためには
pn接合のダイオードに重金属拡散や電子線照射を施してキャリアトラップを作ることで、戻ってくる途中のホールを捕まえます。trrを2桁から3桁改善できますが、そのかわりVFが大きくなってしまいます。
このような対策を施したダイオードを高速ダイオードといい一般にFRD(Fast Recovery Diode)と呼びます。
ファストリカバリダイオードの使い分け
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- 600V耐圧ダイオードのVF-trrトレードオフ
一般整流ダイオード
いわゆるpnダイオードで、高速化をしていないものをいいます。trrが大きく、VFは1V程度(600V品の場合)と小さいです。50/60Hzなどの商用周波数を想定して作られており、スイッチング回路には使用されません。
FRD
ファストリカバリダイオードのことです。高速化されており、trrは一般に50~100ns程度です。VFは1.5V程度と一般整流ダイオードに比べてやや大きくなっています。
一般に「高速ダイオード」というとこのタイプをさします。
FRD(超高速タイプ)
ファストリカバリダイオードの中でも特に高速性を重視して作られたものです。trrは25ns程度と非常に小さいがVFは3~3.6Vと非常に大きいです。特に高速性が必要な場合に使用します。これ以上VFを大きくしてもtrrの改善効果は少ないです。
このタイプは高速性だけでなく、ソフトリカバリ特性も重要になります。
電流臨界型アクティブフィルタの電流波形
図のように、ダイオードの電流はゆるやかにOFFに向かいます。リカバリ電流もインダクタに制限されてあまり大きくなりません。
このような用途では、極端に高速なダイオードは必要なく、一般的なFRDでVFがあまり大きくないものを使用した方が効率が向上します。
600Vクラスの高速ダイオードのtrr
- 超高速タイプ の例
trr=25nsec(max),VF=3.6V(max) - 高速タイプ の例
trr=100nsec(max),VF=1.5V(max)
この用途では下段の高速タイプが適しています。
電流連続型アクティブフィルタの電流波形
図のように、ダイオードに電流が流れている状態から急に逆電圧が掛かって電流が切れるような使い方の場合、trrの期間に非常に大きなリカバリ電流が流れてしまいまい、損失の原因になります。
このような回路で使用する場合には、VFを犠牲にしてでも極力trrの小さいダイオードを使わなければなりません。
600Vクラスの高速ダイオードのtrr
- 超高速タイプ の例
trr=25nsec(max),VF=3.6V(max)
- 高速タイプ の例
trr=100nsec(max),VF=1.5V(max)
この用途では上段の超高速タイプが適しています。
ソフトリカバリとハードリカバリ
リカバリ電流が急激に収束するとノイズの発生源となるので、trrが小さいだけでなくソフトに収束することが求められます。
下記の①と③はカタログ上のtrrは同じに見えてしまうかもしれませんが、損失もノイズも大きく異なります。また、②はカタログ上非常に優れているように見えますが、大きなノイズを発生させてしまいます。
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- 電力損失もノイズも小さい
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- 電力損失は小さいが、ノイズが大きい
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- 電力損失もノイズも大きい