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半導体産業が日本で衰退した理由、周回遅れからの巻き返しは可能か?

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総務省の「令和3年 情報通信白書」によると、かつて世界の半導体市場で50%強のシェアを獲得していた日本は、2019年にはそのシェアを1割まで落としています。製品・サービスのデジタル化が進むにつれて、半導体のニーズも高まる中、半導体は世界的に供給不足の状況です。

半導体産業が衰退した日本は、もはや周回遅れといわれていますが、果たして供給不足をチャンスにする形での巻き返しは可能なのでしょうか。

この記事では、日本の半導体産業が衰退した主な理由と、未だ残る強みについて解説します。

【目次】

1.日本が半導体産業で世界の頂点に立てた理由

かつての日本は、なぜ半導体のシェアを伸ばし、世界にその存在を知らしめることができたのでしょうか。大きな理由としては、当時の新技術の存在があげられます。

例えば、半導体製造は、空気洗浄度が一定以上になった「クリーンルーム」で行われます。クリーンルームは、人間の目に見えないゴミを商品に混入させず、品質低下を起こさないための設備です。

靴で入るアメリカの製造現場にはない、新しい概念を生み出したことで、日本企業は良質な半導体製造を実現することができたのです。

また、1980年代から90年代初頭まで、日本の半導体は通信機器・コンピュータ部門が大口顧客であり、重要なマーケットでした。新技術とマーケットがうまくかみ合ったことで、日本は世界の頂点に立つことができたといえるでしょう。

2.半導体産業で日本が後れをとった理由

頂点に立った日本の半導体産業は、なぜ後れをとることになったのでしょうか。以下、主な理由について解説します。

日米半導体協定

1980年代、日本の半導体産業が躍進を続ける一方で、その状況を快く思わない国も出てきました。特に、アメリカとの貿易摩擦は半導体産業においても深刻で、過去に締結された「日米半導体協定」では、日本市場における外国製半導体の比率を20%にするという購買義務が課されるなど、非常に不平等な協定を結ぶことになってしまいました。

主要マーケットの移り変わり

半導体マーケットが、それまでの通信機器と大型コンピュータからパソコンに取って代わったことも、日本が後れをとった理由に数えられます。

日本の半導体は長年使えるよう品質を重視していましたが、パソコンの場合は数年間動けばよいという感覚なので、同じものを安く作ることが求められます。韓国・台湾・中国といったアジアの国々は、こういったニーズの違いに日本が伸び悩んでいる状況の中で、それぞれの政府による保護を受け半導体産業を成長させました。

戦略思考の欠如

原因のすべてが海外の事情というわけではなく、日本の大手半導体メーカーの側にも一因はありました。 日本の大手半導体メーカーは、半導体だけを製造しているわけではなく、その多くは基本的に総合電機メーカーの一部門に過ぎませんでした。そのため、経営トップ層が半導体ビジネスに精通していないことも珍しくなく、不況時に投資して好景気になってから売上を伸ばすという、戦略思考に基づく決定が難しかった部分は否めません。

デファクト製品の製造ができなかった

利用者が多いデファクト製品を作ることができなかったのも、日本の敗因の一つです。例えば、電子機器の頭脳となる最先端のロジック半導体を作る工場は、残念ながら日本には存在しません。

ロジック半導体の分野に関しては、日本は他国より10年遅れているともいわれています。今後、日本が半導体の分野で復活を遂げるためには、優れた技術を持つ海外メーカーとの連携が求められるでしょう。

自動車産業や産業機器・工作機械産業など、日本には競争力の高い分野が多数存在します。半導体の分野が強化されれば、日本の競争力はより強まるものと期待されます。

3.半導体産業で未だに日本が強い分野

諸々の事情から、日本は半導体製品のシェアを失ってしまいましたが、「半導体製造装置」や、シリコンウエハなどの「材料」に関しては、日本が高いシェアを誇ります。

半導体製造装置や材料の分野で、日本が強さを保てている理由の一つに、かつての大手半導体メーカーの存在があげられます。サプライチェーン構築のため、製造装置や材料を提供してきた企業が、その強みをそのまま保っている状況です。

また、製造装置が安定している理由として、メーカー側が製品のライフサイクル短縮に対応できていることも無視できません。

半導体の主要な用途は、パソコンからタブレット・スマホにシフトしており、その分ライフサイクルも短縮傾向にあります。主な用途が変わり、製造プロセスも変わっていくことから、その流れに柔軟に対応できるメーカーでなければ生き残れません。

結果的に、基礎技術を持つ日本が、価格競争に巻き込まれていない状況が出来上がっています。

次に、材料の観点からは、日本が「化学分野に強い」点があげられます。日本のシェアが高い材料には、次のような特徴が見られます。

・液体(または気体などの流体)に関係する材料のシェアが高い
・熱をかけて固めた材料や部品のシェアが高い

化学で取り扱う気体・液体などは、最初から形状が決まっておらず、日本では職人芸のような技術によって最適化がなされている傾向にあります。改善をいとわない現場の努力に対するモチベーションの高さも、日本の強みの一つに数えられます。

4.日本の半導体が巻き返しを図るには

これから日本の半導体産業が巻き返しを図る上では、海外メーカーとの技術力の差を埋める必要があります。具体的には、中長期的視点に立って人材を育成する必要があり、政府が兆円単位の支援を行うことも求められるでしょう。

これまでの発想を見直すことも重要で、例えば半導体を縦に積み重ねる3D化は、電気信号の移動距離が短くなり処理速度がアップすることで、消費電力を1/2に抑えられるメリットがあります。現在のトレンドで勝負するのではなく、新しいトレンドに乗ることで、一発逆転の可能性が見えてくるでしょう。

加えて、電気自動車の性能向上など、今後よりニーズが高まる分野への投資もおろそかにはできません。

どのようなベクトルを目指すにせよ課題は多いものの、半導体のニーズが高まる中、日本に与えられたチャンスはゼロではありません。日本の強みを生かしつつ、海外企業と連携しながら開発を進めれば、巻き返しも十分期待できるはずです。

昨今では、SDGs等による環境意識の高まりから、モビリティ市場・産業機器市場におけるモータ駆動部のインバータ化や電子制御の普及が進んでおり、駆動部・制御部の更なる小型化・高効率化が求められています。当社では、こういったニーズを踏まえつつ、各種半導体素子の特性を最大限に活かし、高放熱・小型化・高集積化、組立工程の簡略化に貢献するパワーモジュール製品等を製造しております。

5.まとめ

かつて、日本は半導体産業で世界の頂点に立ちましたが、現代では大幅にシェアを失ってしまいました。しかし、製造装置・材料の分野では日本が未だ強みを維持しており、これまで培ってきた技術は決して無駄にはなっていません。

日本が巻き返しを図るためには、海外メーカーとの技術力の差を埋める努力が求められます。過去や現在のトレンドに追随するのではなく、新しいトレンドを先取りできれば、日本にも一発逆転の可能性があるはずです。

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