EV革新を支えるパワー半導体の役割と今後

2022年5月掲載

近年、世界中でEV(電気自動車)開発が盛んに行われていますが、EVの性能向上に貢献すると期待されているのがパワー半導体です。
パワー半導体は、EV開発で課題とされてきた車体の軽量化や走行距離の延長を実現するカギとして注目されています。本記事では、EVにパワー半導体が使用される理由やパワー半導体の役割、今後について解説します。

【目次】

1.EVとパワー半導体の関わり

パワー半導体は通常の半導体に比べ高耐圧、大電流に対応でき、大電力の制御に欠かせないアイテムとして、需要が増加しています。パワー半導体の特徴とEVにおける役割について見ていきましょう。

パワー半導体とは
半導体のうち、電力の変換や制御ができるデバイスをパワー半導体といいます。CPUなどの集積回路が「頭脳」に、カメラのセンサーが「目」にあたるとすると、パワー半導体は「筋肉」に例えられます。通常の半導体に比べて高電圧・大電流を扱えることが特徴で、定格電流が1A以上のものをパワー半導体と呼ぶ定義が一般的です。
半導体は電力損失が発生すると、発熱して高温になり、故障しやすくなります。しかし、パワー半導体には電力損失の低減に加えて放熱性を高める工夫が施されており、高電圧・大電流を扱えるのです。

EVのインバータに使用されるパワー半導体
EVの電動システムはバッテリ・モータ・インバータの3つからなり、パワー半導体はインバータの構成要素です。インバータは、電力源となるバッテリから出力される直流電力を交流に変えて、駆動力を生み出すモータに供給する役割があります。直流から交流に変換するときに、周波数や電圧を細かく制御してモータを動かすため、ドライバーの操作に合わせたスムーズな加減速が可能になります。
しかし、電力変換時にエネルギーを損失すると、熱となってロスされるのでインバータが発熱します。発熱量が大きいと、その分大きな放熱機構が必要になり、車内は狭く重量は重くなってしまう問題がありました。パワー半導体の素材はシリコン(Si)が使われてきましたが、EVのような用途には更なる低電力損失を実現するパワー半導体の研究が期待されていたのです。

2.次世代パワー半導体によるEV革新

Siパワー半導体の開発が進み、性能向上が進んだものの、材料自体の物理限界に近づいてきました。そのような中、EVのような更なる高性能要求の用途が出現し、Siとは異なった材料を用いた次世代パワー半導体の開発が必要となっています。

パワー半導体を革新する次世代技術
これまでパワー半導体の材料には主にSiが使われてきましたが、近年注目を集めているのが、炭化ケイ素(以下、SiC)や窒化ガリウム(以下、GaN)などの素材です。SiCは炭素とケイ素、GaNはガリウムと窒素の化合物なので、これらは化合物半導体とも呼ばれ、次世代のパワー半導体として研究が盛んに進められています。

次世代パワー半導体がもたらすEVの変化
パワー半導体の開発課題のうち、解決が困難なのはオン抵抗と耐電圧の両立でした。半導体の抵抗値が大きいと電力損失が起きてしまう(=オン抵抗が大きくなる)ため、材料の抵抗値は小さい方が良いとされています。オン抵抗が同じでも、材料のバンドギャップが狭いと、高い電圧をかけたときに破壊が起こりやすくなります(=耐電圧が低い)。
よって、Siよりも広いバンドギャップをもったSiCやGaNの研究開発が進められてきました。SiCやGaNのバンドギャップはSiよりも3倍ほど広く、ワイドバンドギャップ半導体と呼ばれています。
SiCは幅広い周波数に対してスイッチング損失が低く、発熱による損失エネルギーを削減できるため、燃費が良くなります。さらに放熱機構を簡略化できるので軽量化も可能。EV製造にかかるトータルのコスト削減にも繋がります。
GaNは逆回復電流がほぼゼロなので、スイッチング損失が小さく、低オン抵抗が叶えられます。インバータの小型化、軽量化が可能になり、同じバッテリ容量でも長く走行できます。

3.加速が進むパワー半導体の開発

2022年2月にASTUTE ANALYTICAが発表したレポートによると、EVの世界市場は2021年の2,298億ドルから、2050年には72兆7,980億ドルに成長すると予測されています。EV市場のCAGR(年平均成長率)は21.73%と急速に成長する中、パワー半導体市場も同様に伸びが予想されています

SiCパワー半導体の今後
株式会社富士経済の調べによると、SiCパワー半導体の市場規模は2020年493億円から、2030年1,859億円と3.8倍に増加すると予想されています。政府、民間団体、研究機関、メーカーが投資を行っており、2022年以降、更なる拡大を見込んでいます。
SiCパワー半導体は情報通信機器にも使用されますが、欧州や北米の自動車メーカーからのニーズが高く、自動車・電装分野での比率が高まることが予想されます。

GaNパワー半導体の今後
同じく株式会社富士経済の調べによると、GaNパワー半導体の市場規模は2020年の22億円から2030年には166億円と7.5倍に増加すると予想されています。GaNは量産化が難しいとされてきましたが、2022年以降は自動車・電装分野でMOSFETに近い用途での採用が期待されています。

実用化が期待される酸化ガリウムパワー半導体
さらに次世代の高性能素材として期待されているのが、酸化ガリウムです。株式会社富士経済の調べでは、2030年にGaNを上回る465億円ほどの市場規模になるのではと予測されています。
酸化ガリウムはSiCやGaNより高耐圧・低損失という特性があり、低コスト化が可能です。実用化が徐々に進んでおり、中耐圧の民生機器から高耐圧の産業分野へ展開が予想されます。信頼性を獲得してからEVへの活用が開始される見込みです。

4.まとめ

パワー半導体は電力の制御や変換ができるデバイスで、通常の半導体より高い電圧や大きな電流を扱えます。EVのインバータに用いられ、効率の良い状態でのモータコントロールを可能にします。

パワー半導体のデバイス性能を高め、インバータの小型化を実現するには、エネルギー損失を減らす必要があります。そこで従来のSi半導体より高性能なSiC、GaNといった化合物を素材とした半導体に注目が集まっているのです。

SiCやGaNを用いた次世代パワー半導体は、EV市場の伸びと連動しながら、使用が拡大していくでしょう。

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