SiC(シリコンカーバイド)半導体とは|特徴や用途について解説

  • column_vol49

半導体は、電流制御がしやすいSi(シリコン)を素材として製造されてきた歴史がありますが、その発熱しやすい性質から高性能な電子機器には不向きとされてきました。しかし、近年では次世代素材を使ったパワー半導体が登場しており、中でも「SiC(シリコンカーバイド)半導体」への注目度は高まっている状況です。SiCは、Siと比較して高性能な素材と考えられており、様々な分野で本格的な活用が期待されています。この記事では、SiC半導体の主な特徴や、具体的な用途について解説します。

【目次】

1.SiC(シリコンカーバイド)半導体とは何か

SiC(シリコンカーバイド)とは、Si(シリコン)とC(炭素)で構成される化合物半導体材料のことをいいます。SiCは、Siと比較して絶縁破壊電界強度(ある物質に電界をかけたときに物質が壊れる寸前の限界値)が10倍、バンドギャップ(価電子帯の上部から伝導帯の下部までのエネルギーの差)が3倍と非常に優れており、Siに比べて高温環境でも動作するのが特徴です。

熱伝導率も3倍ほど高いことから、高耐熱・高耐圧・高放熱という“パワー半導体に求められる性能”を備えた材料といえます。半導体市場においては、まだSiCデバイスよりもSiデバイスの方が多く利用されているものの、将来的にはSiCデバイスの占める割合は拡大するものと考えられています。

2.SiC半導体の特徴

次世代のパワー半導体向け材料として注目を集めるSiCを用いたSiC半導体は、Si半導体と比較した際、次のような点で特徴が際立っています。

信頼性の高さ

絶縁破壊電界強度がSiよりも圧倒的に高いSiCは、それだけ高い電圧に耐えられるため、大電力を扱う回路にも利用することができます。また、熱伝導率の高さはデバイスの寿命を延ばすことにつながり、信頼性の高いシステム構築を実現しやすいのもメリットです。

高効率化

SiCは、同じ電圧に耐えるために必要な半導体の厚さを、Siよりも薄くすることが可能です。加えて、Siよりも高温な環境でも動作する分、電力損失を抑制できます。よって、SiC半導体を採用することにより、これまでのパワー半導体と比べてエネルギー効率を大幅に向上させることが期待できます。

デバイスの小型化

大電力を扱う回路は動作時に大量の熱を出すため、SiC半導体が登場する以前のパワー半導体は、安定的動作のために大型で複雑な冷却システムの併用が必要でした。しかし、SiC半導体は低損失で温度上昇が少ないことから、冷却システムの簡素化・機器の小型化が期待できます。

高速動作の実現

MOSFETはドリフト層(ドレイン側に高電界が印加されたときにバッファ層として機能し、デバイスの破損を防止する層)の厚みを増やすことで耐性を高められますが、厚みがあるとそれだけON抵抗が大きくなってしまいます。しかし、絶縁破壊電界強度が高いSiCなら、ドリフト層が薄い状態でも高耐圧が実現し、ON抵抗が小さくなります。その上で、SiCのMOSFETはSiのMOSFETと同様の構造で製造可能なため、高耐圧でありながら高スイッチング動作を実現することができます。

3.SiC半導体で想定される用途

Siを使用したパワー半導体と比較して高性能なSiC半導体は、次のような分野での本格的な活用が期待されています。

電気自動車

Si半導体に比べて大幅な電力損失の低減が期待できるSiC半導体は、EVにおいて適用できる範囲が広く、次のような機器に需要があります。

●車載充電器

●メインモータ駆動用のインバータ

●地上設置用の急速充電器 など

特に、車載インバータの電力損失は3~5割ほど削減できるとされており、その分EVの課題の一つであった航続距離の延長が期待できます。その他、充電時間の短縮やモータの小型化にも貢献するものと予想されます。

再生可能エネルギー

太陽光・風力発電などで得られたエネルギーを電力網へと送る際、SiC半導体を活用することで、電力の安定供給・電力システム全体の効率向上が期待できます。例えば、高温での安定動作を利用して、自動車・携帯電話基地局などスペースが限られる場所であっても、高密度の電力変換システムが構築できる可能性があります。

データセンター

データセンターは、膨大な量のデータを処理するために大量のサーバを使用していますが、その分消費されるエネルギーも膨大になります。そこで、SiC半導体を採用して電力変換効率を高めると、冷却に必要なエネルギーを削減できることから、結果的にデータセンターの省エネ化が期待できます。

4.未来の製品開発にSiC半導体の導入は必須

SiCを使用したパワー半導体は、半導体の新たな可能性を開くものと期待されています。2024年現在では高コスト傾向にあるものの、将来的には製造プロセスの改善などによりシェアを拡大するものと予想されます。

新電元工業においても、低消費電力・低ノイズ化を実現した「SiCショットキバリアダイオード」をラインアップに含め、新時代への対応を進めています。また、高速動作時に発生するサージ電圧の悪影響を抑制できるよう、内部構造を左右対称レイアウトとしたSiCパワーモジュール「MG074」を開発し、サンプル出荷も開始しています。

5.まとめ

Si(シリコン)に代わって登場した新素材「SiC(シリコンカーバイド)」を使用した半導体は、Si半導体と比較して耐熱性・耐圧性・放熱性に優れており、将来の半導体市場を席巻することが予想されます。SiCは半導体の厚さを薄くしつつ、高い電圧に耐え熱伝導率を高くすることが可能なため、信頼性の高いシステム構築や高効率化、デバイスの小型化などに適しています。

その性能は、EVが課題としてきた航続距離の延長の実現、スペースが限られた場所における再生可能エネルギーの高密度の電力変換、データセンターの省エネ化などに貢献するものと期待されています。コスト面での問題が解決すれば、Siに代わってSiCがパワー半導体のスタンダードになる日はそう遠くないはずです。

トップへ戻る