ユニバーサルデザインがコンセプト!
誰もが使いやすいEV充電器「SDQC2F60」

ユニバーサルデザインをコンセプトとして開発された当社のEV用急速充電器「SDQC2F60」は、誰もが使いやすいEV充電器としてテレビや雑誌などでも注目を集めています。今回はそのような特長ある製品を生み出した開発者たちに裏側のエピソードを聞きました。

(左)
齋藤 裕介
営業本部マーケティング部販売促進課
2007年入社。EV充電器の販売促進業務を担当しており、営業のサポートや市場動向調査を行っている。また営業現場やマーケットからの声を拾い、開発部門に展開する開発インプット業務も行っている。

 

(中央)
木村 勇作
エネルギーシステム事業部第二設計部第一設計課
2014年入社。EV急速充電器の構造設計を担当。2025年春販売予定のMITUSの開発にも携わっている。

(右)
平島 光
エネルギーシステム事業部第二設計部第一設計課
1997年入社。EV急速充電器の開発担当。市場ニーズに対応した新製品を展開すべく、ディスペンサや電源盤の開発を行っている。

2021年7月より販売開始したEV用急速充電器「SDQC2F60」は、誰もが使いやすいEV充電器を目指し、ユニバーサルデザインをコンセプトとして開発されました。SDQC2F60は  薄型・低背な構造を特長としています。充電スポットには、機器本体と保守スペースの確保が必須であり、さらに充電器利用者の利便性を追求すると利用スペースもより広く確保することが求められます。ところが、限りある設置場所の敷地面積で、これらのペースを作り出すことはなかなか難しく、多くの場合は設置場所の整備・工事が必要になります。

しかし、SDQC2F60の装置の薄さはわずか350mmのため、狭小地や建物と駐車スペースの間が近い場所にも、保守スペースと利用スペースを確保しつつ設置することが可能です。充電器の設置事業者にとっては 設置コストの低減になり、充電器利用者にとってはより利用スペースを広く使えるため操作性の向上につながります。また、装置全高を約1.4mに、ICカードタッチ部の高さを約1mに抑えており、車椅子利用者は手をのばすことなく操作パネルを操作することができたり、見上げることなく操作画面を確認することができます。

SDQC2F60はこれら特長から、誰もが使いやすいEV充電器として注目されています。

目次

新た付加価値を生む。ユニバーサルデザインに着目した製品開発をスタート。

齋藤:
当社は、EV充電器業界のなかで先駆けて大容量帯の開発に注力してきました。高い充電出力を実現することで充電渋滞の発生を抑制したり、EVユーザーが長距離移動しやすくするなど、EV普及に向けた課題に対して高出力というアプローチを取ることが多かったです。2018年には90kW、2020年には150kWクラスの製品を販売開始し、150kWクラスについては国内メーカーで初めてCHAdeMO Ver1.2認証を取得しました。

国内初でCHAdeMO Ver1.2認証取得の150kWクラスの創出に成功した段階で、大容量帯の開発は当時構想していたある程度の域までに到達しました。それと同時に、改めてゼロベースに立ち返り、EV充電器メーカーとして高出力だけはなく、これまでにない付加価値を創出する必要があると考えました。

そこで着目したのが「ユニバーサルデザイン」です。従来のEV充電器は大型なものが多く、設置場所に圧迫感が生じてしまい、利用者にとって使いづらい環境になっていました。特に高齢者や体が不自由な方にとって狭い空間で重い充電コネクタを扱うことは容易ではありません。これからのEV普及を見据えて、誰もが使いやすいEV充電器を生み出す必要があると思い、ユニバーサルデザインという新たなテーマにむけて開発の舵を切りました。

350mmへのこだわりと課題。

平島:
「ユニバーサルデザイン」というテーマが決まった後、細かい仕様を詰めていきました。外観は薄型・低背化により利便性を向上させることにしました。また、先行で販売していた当社の急速充電器90kWの2出力という特徴に加え、出力は同時充電で最低30kW可能な60kWの方向性で開発着手しました。

外観イメージを元に詳細設計を進めたところ、高い目標であった350mmの薄型化に対しては、何度か開発メンバーから実現困難の声もあがり400mmへの妥協も検討しました。しかし、当時、既に400mmの製品は市場に存在していたことや製品全体の設計バランスが崩れてしまうこと、そして何より薄型にすることでユーザーがより使いやすいものにしたいという信念から350mmにこだわりきり、内部実装の各機能ブロックを小型化することで実現することができました。

木村:
内部構造を小型化するために様々な工夫をしました。その一つが熱対策です。

SDQC2F60で最も温度上昇するのが筐体の上部両サイドにある操作部分です。製品全体から出る熱がこの部分にこもってしまい、この部分に搭載されている電子部品は特に熱に弱いため何かしらの対策が必須でした。

ユニバーサルデザインを実現させる様々な工夫

平島:
熱対策として、操作部分と電源部分をわけた分離構造を試みました。

元々はひとつの筐体のなかに全機能ブロックが実装される構造でしたが、SDQC2F60では操作部分と電源部分がそれぞれ別の筐体に実装され、最終的に組み合わせることで製品として一体化させています。

そうすることで電源部分からの熱が操作部分にこもらなくなり、温度上昇をおさえることができます。しかし、分離することは電子回路を分けることにもなるので、どのように電子回路を分けるか、どのくらい電子回路を離すことができるかを実験しながらの設計になりました。少しずつ、少しずつ前進していく地道な開発が続きました。

斉藤:
実はこの分離構造の設計は、2025年春から販売開始予定である当社の分離型急速EV充電器『MITUS』の開発の礎にもなりました。

木村:
他にも放熱性をあげる対策として、電源ユニット用の冷却FANをうまく操作部分にも応用しました。発熱する操作部分用に冷却FANを搭載することは、搭載スペースの余裕が無く困難でした。そこで、電源ユニット用に搭載している冷却FANの送風を操作部分のヒートシンクにもあてることで放熱性を向上させることに成功しました。製品全体の最適構造を考えながら、微妙な調整を行うのが大変でしたね。

本開発を経て今後にむけて

齋藤:
SDQC2F60の開発は社内からも評価され、社外でもテレビや雑誌など様々な場面で取り上げられ注目が集まりました。様々な場所に充電器が設置される世界をより早く察知し、誰でも使いやすい充電器というコンセプトで開発できたと思います。今後もマーケティングの観点から市場のニーズを開発者に届けていきたいと思います。

木村:
コンセプトデザインから製品開発を達成することができたので、今後も上流段階での設計検討に力を入れていきたいです。今回は、薄型・低背構造というコンセプトからユニバーサルデザインという観点が評価されたので、今後、更に広い視野を持って設計に望みたいと思います。

平島:
近年、ユニバーサルデザイン・バリアフリーのニーズの高まりを受けて、SDQC2F60が注目されて非常に嬉しい気持ちです。海外メーカー含め競合他社が多い市場ではありますが、既存の90kW/150kWシリーズのラインナップも充実させつつ、分離型急速EV充電器『MITUS』の様な特徴的な製品開発もしていきたいと考えています。

編集後記

2024年に大阪府で開催されたバリアフリー展2024には、当社も出展し「SDQC2F60」を展示し、車椅子体験コーナーを設けました。実際に体験を行った福祉関係者や車いす利用者からはSDQC2F60の使いやすさを実感し、多く反響をいただきました。様々な課題がありながらも信念をもって開発を成功させた開発者たちの苦労が報われた瞬間でもありました。今後も新電元工業は人々の暮らしや社会がより良いものとなるように、常に新たな付加価値を模索し続けます。
*写真はBICYCLE E-MOBILITY CITY EXPOのブースの様子です。

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