インドのバイク市場|規模や近年の状況・ポテンシャルも解説
人口が中国を上回り、さらなる経済成長が見込まれるインドのバイク市場は活況を呈しており、主要都市では朝夕の通勤時間に道路をバイクが埋め尽くす光景もよく見られます。また、日本経済新聞の調査によると、二輪車の市場シェアにおいて日本企業はグローバルで45%以上を占めています。
日本企業にとって、インドのバイク市場は引き続き魅力的であり、同市場での事業拡大や新規参入を検討する価値があると言えるでしょう。この記事では、インドのバイク市場の規模や近年の状況・ポテンシャルについて解説します。
【目次】
1.インドは世界最大級のバイク市場
国連の「World Population Prospects 2024」によると、インドの人口は約14億4千万人と、中国の人口(約14億3千万人)を上回って首位となりました。その勢いもあってか、インドは世界最大級のバイク市場としても存在感を増しています。
そもそもインドにおいて、バイクは日常生活の「足」として用いられる重要な移動手段であり、通勤時間はバイクで道路が埋まってしまうことも珍しくありません。しかし、インド政府が大気汚染対策として「2030年に二輪車・三輪車の新車販売の8割を電動化する」目標を掲げてからは、現地メーカーが電動バイクを投入している状況です。
日本のバイクメーカーにもインド国内に研究開発拠点を開設する動きが見られ、インドのトレンドにマッチする商品・サービスの開発の方向性として電動バイクに注目が集まっているものと考えられます。
2.インドバイク市場の傾向とポテンシャル
近年におけるインドのバイク市場には、次のような傾向・ポテンシャルが見られます。
二輪車総販売台数は増加傾向
Morder Intelligenceによると、インドの二輪車総販売台数は2022年に15,862,087台、2023年に16,999,920台と順調に増加しており、この増加傾向は継続すると見込まれています。また、インド自動車工業会(SIAM)が公表している自動車国内販売動向では、2023-24の二輪車販売台数が17,974,365台という結果が出ています。
このことから、インドにおける二輪車総販売台数は増加傾向にあると言えるでしょう。
人口ボーナスに伴う持続的な成長
人口ボーナス期とは、15歳から64歳までの生産年齢人口が、子供・高齢者に比べて著しく多い状態のことを指します。公益社団法人 日本経済研究センターによると、2011年時点におけるインドの10-14歳の年齢層は約1億3,270万人に達しており、人口ピラミッドも10-14歳より上の年齢はきれいな三角形を描いている状況です。
若年層が初めて保有するモビリティとしてバイクは手頃であることから、若年層の成長とともに市場も持続的な成長が見込まれます。
都市化と人口流出の本格化
インドでは、人口増加に伴い農村部の住民が仕事・教育の機会を求めて都市に移住するケースが増加している一方、バス・鉄道といった公共交通機関は運行本数が少ないため、普段の足としてバイクを求める人が増えるものと考えられます。バイクの場合、狭い道でも機動力に富み、燃費も四輪車に比べて良い傾向にあるため、道路が混雑するほどバイクが最適解とみなされる可能性が高いでしょう。
3.近年のインドバイク市場の変化
インドでは、引き続きバイクのニーズは高まるものと考えられますが、バイク市場で次のような変化が生じていることにも注意したいところです。
環境規制に伴う二輪EVへの注目
インドにおける環境関連法の制定は、アジア諸国を見渡しても比較的進んでおり、環境保護法が制定されたのは1986年のことです。近年の動向として注目すべき点は、インド政府が2030年までに新車販売に占めるEVの割合を「乗用車3割、商用車7割、二輪車・三輪車8割」まで引き上げる目標を掲げていることです。
JETROのレポートによれば、2023年の二輪・三輪を含むEV新規登録台数は153万2,313台、全体の約6.4%ではあるものの、都市部のみならず地方でも二輪EVの人気が加速している状況で、メーカー各社も大都市以外への出店を進めています。地域によっては、補助金をもらって電気供給を受けることで、充電コストを大幅に抑えているケースもあります。
近年のスクーターには、アイドリング時に発生する無駄な燃料消費や排出ガス、振動、騒音を低減した「アイドリングストップ(I/S)システム」が多く搭載されており、新電元でも始動モータ制御・バッテリ充電制御を両立したアイドリングストップ対応ECUをラインアップしています。
フレックス燃料車の台頭
フレックス燃料車とは、ガソリン・軽油等の従来の燃料に対して、バイオ燃料等の代替燃料を任意の割合で混合できる車両を指します。ガソリンにエタノールを20%混合した「E20」は、2023年2月からインドの一部地域で販売がスタートしており、日本メーカーも普及を見据えてフレックス燃料車対応モデルを発表しています。
ただし、燃料の安定供給や寒い地域でのエンジン始動、燃費の悪化など、普及にあたっては課題も少なくありません。
ハイクラス車のニーズ増
インド市場においては、移動または物資の輸送にバイクを使用する傾向が強く、総じて排気量125cc以下の安価なモデルが人気を集めています。しかし、経済成長に伴い、小排気量モデルからハイクラス車への乗り換えを検討するドライバーが増えるものと考えられます。
将来的には、デザイン・高排気量・悪路走破性などに配慮したバイクが、より多くのユーザーからの注目を集めることでしょう。
4.二輪EV普及の鍵は「制御ユニット」
今後のインドにおけるバイク市場の動向を見定める上で、二輪EVの普及がどの程度進むのかは重要なポイントになります。二輪EVはエンジンの代わりに三相ブラシレスDCモータを動力源とするため、車両状態に合わせたモータ制御駆動を最適に行えるかどうかがバイクの走行性能を左右します。
新電元工業では、インド市場の厳しい注文に堪えうる二輪EV用制御ユニット「DUO12」の量産初ロット出荷を2023年5月に成功させており、次モデルの開発にも着手しています。
5.まとめ
世界最大級のバイク市場であるインドは、人口増加と都市化を背景に、今後も成長が見込まれます。また、政府が2030年までに二輪・三輪新車販売の8割を電動化する目標を掲げたことで、二輪EVへの注目が急速に高まっています。
ガソリンにエタノール等を混合できるフレックス燃料車も登場し、経済成長に伴うハイクラスモデルへの需要も増加傾向にあります。将来の二輪EV普及においては、制御ユニット技術の向上が重要となり、メーカー側も市場の変化に対応すべく開発を進めています。