"見せない"という新発想
自由なEV充電器「見せない普通充電器」

“見せない”という新発想から生まれた当社のEV用「見せない普通充電器」。駐車場の輪止めブロックよりもコンパクトで、地面だけでなく壁面や天井に自在に設置可能です。今回は新たなEV充電器の在り方を提案した「見せない普通充電器」の開発ストーリーに迫ります。

(左)
高橋 力也
エネルギーシステム事業部第一設計部第一設計課
2016年入社。EV普通充電器や基地局用電源設備の製品開発を行っており、構造設計を担当者している。

(中央)
宇野 佐登志
エネルギーシステム事業部第一設計部第二設計課
2017年入社。整流装置や監視装置、EV用普通充電器の開発を行っており、ソフトウェアの設計を担当している。

(右)
山下 将武
エネルギーシステム事業部第一設計部第一設計課
2019年入社。EV普通充電器の開発を行っており、電気設計担当として回路設計をしている。

 

昨今、様々な商業施設や自治体施設、サービスエリア、道の駅などでそれぞれの企業や地域に応じた個性を反映した施設・空間づくりが盛んに行われています。そのような個性ある空間づくりに配慮しながらも、設置事業者や利用者一人ひとりのニーズに柔軟に対応することによって、その場所の価値向上に貢献するEV充電インフラ設備を生み出そうという発想のもと開発されたのが、当社が2023年5月より販売開始したEV用「見せない普通充電器」です。 

見せない普通充電器はコンパクトかつ堅牢な筐体で、地面だけでなく壁面などにも設置ができ、充電サービスや設置場所に合わせて設置の仕方をアレンジできるのが特長です。また、Bluetooth®通信機能によって決済認証や消費電力マネジメントのような応用サービスへの連携が可能など、設置事業者によって自由自在な使い方ができます。

従来のEV普通充電器は、デザイン性や操作性を重視した製品が多いイメージがあります。設置方法も、壁面取付や自立ポールが一般的でした。そのような中で"見せない”という逆転的な新発想が生まれたのは、どのようなストーリーがあったのでしょうか?

目次

“見せない”という新たな製品コンセプトが生れた背景とは?

宇野:
新電元が普通充電器の販売を開始したのは2013年からです。普通充電器の耐用年数は凡そ8~10年といわれていて、見せない普通充電器がリリースされた2023年は、普通充電器の販売初期に設置された製品が丁度リプレイスを迎えるタイミングでした。このリプレイスのタイミングにむけて、現在のEV充電インフラ市場のニーズに合うアップデートした普通充電器を開発しようという社内の流れがありました。

製品企画の段階で、EV充電器の設置事業者からの声を拾っていったところ “独自にEV充電サービスを選択し導入したい”や“EV充電器は設置面でのハードルが高い”という声があり、そういった市場のニーズに応えた自由度の高い製品が必要だと考えました。

小さいのに強い!車の重さにも耐える丈夫な筐体。

高橋:
見せない普通充電器は、地面や壁面など、場所を選ばず様々なエリアに設置ができることをコンセプトとしています。その中でも特に地面設置は車などに踏まれる可能性があったため、車重に耐えられる強度を実現しつつ、どこでも設置できるコンパクト且つ軽量な筐体の設計が必要でした。

加えて、今回は当社初であるBluetooth®の搭載ということもあり、電波を遮らない樹脂素材を筐体に使う必要がありました。樹脂は金属よりも強度が劣るため、如何に高い強度を実現させるかが課題の一つでした。単純に厚みを増やすことで強度は確保できますが、軽量化およびコンパクトな筐体を実現するためには、薄板化しつつ強度を確保できる「素材選定」と「形状検討」の必要がありました。

これらの検証は非常に時間を要しました。特に形状については、タイヤで踏まれる圧力やタイヤのサイズなどを考慮し、強度シミュレーションを繰り返し行い最適形状の検討を行いました。応力集中する箇所の形状を見直しすると別の箇所に応力が分散してしまい問題なかった部分が弱くなってしまうなど、試行錯誤を重ねていきました。

最終的に実際の車で踏みつけた試験を行い、破損等することなく目標となる性能を達成することができました。

JARI認証取得!安心して利用してもらうために。

山下:
国内唯一の普通充電器の認証規格が一般財団法人日本自動車研究所(JARI)で実施しているJARI認証です。EV充電器の安全性や互換性を担保するために厳しい認証基準をクリアした製品のみ取得することができるため、設置事業者が安心してEV充電器を選び、使用することができる決め手の一つとなります。更に、認証取得している充電器は「充電インフラ補助金」の対象となるので、設置事業者がEV充電器を導入する際の負担軽減に貢献することができます。

見せない普通充電器もJARI認証を取得していますが、予定通りには進みませんでした。認証の過程で防水性を担保する部分に基準を満たせない箇所が見つかったため、新しい構造を模索しました。社内でも初採用の構造であったため知見が少ない中での設計変更でしたが、認証機関とのやり取りを重ね、基準を満たす製品を完成させることができました。

開発を振り返り。新たな知見を今後に繋げる。

山下:
社内でも期待の高い製品に携われたことをうれしく思います。既存の普通充電器とは異なる構造であったり、当社として初めてのBluetooth®製品搭載などで当初のリリース予定時期からやや後ろ倒しとなり、改めて製品開発の難しさを実感しました。現在も派生機種の開発中なので、今回の開発で得られた新たな知見を活かして、今後の製品開発に繋げていきたいです。

高橋:
Bluetooth®搭載の製品開発は新たな試みで手探りでの開発でしたが、様々な課題を乗り越えて無事完成できたことを嬉しく思います。業界ではより高出力な10kWという普通充電器の規格も登場しており、今回の開発で得た知見を活かして今後は派生機種などの開発にも携わっていきたいです。

宇野:
今後のEV普及にともない一層の充電インフラ拡充が見込まれるため、顧客のニーズに応える製品を展開していきたいです。当社はメーカーですが、製品の製造だけでなく将来的にはソフトサービスも手掛けていくことでより付加価値のあるEV充電体験を提供できるのではないかと考えています。

編集後記

”見せない”をコンセプトにする小さな筐体のなかには、開発者たちによる挑戦や創意工夫によって生み出された様々な技術が集結しています。そして、その技術によって利用者や設置事業者のニーズに合わせて自由自在に使うことができる新たなEV充電器の在り方を実現しています。近い将来、あらゆるEV充電スペースの地面や壁面、天井で見せない普通充電器が活躍している景色を見ることができるかもしれません。今後も新電元工業は価値ある未来を創るために前進していきます。

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