インドでのEV二輪「DU012」拡販奮闘記

(左)
財津健人
電装事業本部営業担当
2016年入社 営業として中国市場の拡販を担当したのち、2018年から電動二輪車向け製品に携わる。中国やインドなどへ出張を繰り返し、現地で新電元製品の普及に向けて世界を飛び回る。

(左)
寺島宏次
電装事業本部設計担当
2008年入社 二輪・汎用製品向け電装品のソフトウエア開発を歴任、2017年からPCUの開発を担当。2022年から電装事業部に新設された電動化対応専門部署へ異動し、前線で活躍。

気候変動問題の解決に向け、世界的にカーボンニュートラルの実現に向けた議論が加速しています。中国を逆転し人口世界一となり、2027年には国内総生産(GDP)が世界3位となる見通しのインドでは、加速する経済発展の一方で、大気汚染問題が深刻化しています。BS6(バラート・ステージ6、2020年4月適用)など、次々と環境政策を打ち出すインド政府は、年間2000万台を超える需要を持つ二輪車市場においても、電動車購入に補助金を付与するなど、EVシフトを進めています。

インド政府は、2030年までに国内で販売される新車の3割をEV化させる目標を掲げるなか、当社はインドで拡販活動を進めています。インドローカルメーカーへ電動二輪車向けPCU(パワー・コントロール・ユニット)で新規参入を果たした担当者の奮闘記をお届けします。

開発したDU012

目次

約5800キロ離れたインドで展示会を出展、共同開発が決まる

インド、ニューデリーで2020年2月に開催された「AUTO EXPO2020 COMPONENT」。電装事業本部は日本から約5800キロ離れた地での電動二輪車普及をにらみ、電装事業本部単独としては初めて、インドで開催される展示会にブースを出展しました。

  • 「AUTO EXPO2020 COMPONENT」当社ブース

財津:インドで電動二輪車に少しずつ注目が集まるなか、事前に調査は行っていましたが、実際に興味を持ってもらえるか出展前は不安もありました。

寺島:市場調査や他社の動向も踏まえて準備してきました。製品としての自信はありましたが、インドの顧客が求めているものはこれなのか、そこに乖離がないかというところは現地の反応を見るまでは分かりませんでした。

展示会がスタートすると、EVに興味を持った来場者が絶えずブースに足を運んできました。車両を展示しその場でソフトウエアをカスタマイズしてチューニングするデモンストレーションが注目を集めました。その結果、あるローカルメーカーから打診を受け、急遽展示会終了後に別途詳細打ち合わせを設けるなど話が進展し、共同で開発を進めていくことが決定しました。

コロナ禍のなか、信頼関係構築へ試行錯誤

ところが、展示会終了後日本へ帰国すると新型コロナウイルス感染症が日に日に拡大。海外出張どころか、開発チーム内でのコミュニケーションも慣れないオンラインを活用する環境でのスタートとなりました。

財津:インドの会社とのやり取りは、人と人が直接対面して仕事するスタイルが一般的です。もともと日本から距離も時差もある環境で、それがハードルになることがわかっていましたが、直接赴けなくなり現地で何が起こっているのか、把握することが容易ではなくなりました。
メールでのやりとりでは、日本とインドの間に3.5時間ある時差の関係で朝送信してもすぐ返信は届きません。タイムラグができてしまうので彼らが何を考え求めているのか、現地の考えが把握できないことで、次のアクションをどうしていくべきか判断に悩みました。

コロナの状況も見定めながら、状況が緩和されると、財津・寺島らはすぐさま現地へ飛び立ちました。

財津:お互い初めて手を組んで開発を進めるのに、どのような開発スタイルなのか、日本にいては掴みきれませんでした。直接彼らの声を聞くことで、一気に開発が軌道に乗りました。
寺島:インドは、仕様整合をしてから設計に進む日本のスタイルとは異なり、トライアルアンドエラーしながら一つひとつの機能を構築していく開発スタイルです。彼らが求めていることをかみ砕いて、実際に手を動かして一緒になって開発を進めていきました。

ゴールを目指し、テストの繰り返し

寺島:出張したときには、彼らとお互いの経験から意見を出し合いテストすることの繰り返しでした。あるとき、完成車メーカーに要求するような「1回の充電で何キロ走行できるようにしてほしい」という要求を受けました。当社単独で対応できるものではありませんでしたが、彼らの“やりたい“という声に耳を傾けていくプロセスが大切でした。そのときは、DU012のパラメータを入れ替えるなど、PCU側でできることをその場でチューニングして、テストすることを繰り返しました。幸いにして現地にはテスト車両がいくつも置いてあり、車両を入れ替えながらトライするにはやりやすい環境が整っており、PCUで実現できることと組み合わせ部品側で調整が必要なことを整理していきました。時間をかけてでもまずは手を動かすことも必要で、遠回りだと感じても結局それら一つひとつがコミュニケーションとなり、ゴールに近づきました。

財津:彼らのニーズを直接聞いて、それに応える、それを繰り返すことで徐々に信頼関係が構築されました。初めて会ったときは、当社がどこまでできるのか、試されていると感じました。2021年はおそらくその年の4分の1くらいはインドに居たのではないでしょうか。出張した際は、朝から晩まで彼らの開発拠点でともに車両に向き合い、何度も議論をかわしました。それを繰り返し、とある出張の日本に帰国する最終日に、「次はいつ来てくれるのか?」と再会を期待する声をもらいました。コミットし続けたことで反応が変わったことを実感しました。

量産初ロット出荷、新たな開発へ

異国の地で始まった開発は、コロナ禍という先が見えない苦労も重なりながら、何度も試行錯誤を繰り返し、開発着手してから約3年半が経過した2023年10月、開発完了が宣言されました。「先が見えないなかでも、お客さんがいつでもポジティブだった」ことにも支えられ、完成したDU012は2023年5月に新電元インディアから量産初ロットが出荷されました。
すでに着手されている次モデルの開発でも、当社に協力要請がきています。DU012の開発チームからバトンを引き継いだメンバーが主体となり、開発を進めています。

編集後記

言語、時差にくわえて新型コロナ感染症と経験したことのない環境のなかスタートした開発でしたが、先の見えない状況でもあきらめることなく顧客の声に寄り添い続けたことで、ゴールにたどり着きました。日本とインドの異なる環境を何度も行き来したチームの“熱意”の結晶であるDU012は、電動二輪車が普及し当たり前に見かける時代になって振り返ってみたときに、電装事業のキーポイントとなる製品になっていくことでしょう。

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