自動車の進化を支える「DU011」の挑戦
(左)北里綾音
2020年入社。入社後電装事業本部に配属され、DC/DCコンバータの回路設計としてSPEC評価等の担当を経て、現在はECU設計を担当する。
(右)安藤那海
2017年入社。電装製品の構造設計者として、汎用製品を担当したのちに、現任。構造設計から評価まで幅広くこなす。
自動運転など高機能化が進み、将来的には自動車は運転をして移動するという範疇を超えて、仕事や、ゲーム・読書ができる快適な移動空間になることも期待されています。当社では、自動車走行時における振動の吸収や、車両の揺れを抑える役割を担うダンパーを制御するECUを開発・製造しています。このECUには、カーブにおける車体の沈み込みを抑え、走行を安定させて路面の凹凸を感じず快適に乗車することができる機能を持ち合わせています。
新進気鋭の当社技術者が細部までこだわり駆け抜けた最新モデルECU「DU011」シリーズの開発奮闘記を紹介します。
多様なニーズに応えるECU
北里:一般的に自動車の乗り心地を追求すると、運動性能が落ちて車両の挙動が悪くなるなど、一長一短があります。それらを解消するためのベストな制御をこのECUは目指しています。同時に脱炭素社会実現のために車両ごとに異なるシステムへの対応や制御量の調整のほか、車両単位でさまざまな取付環境にカスタマイズした設計も必要となります。派生機種の要望も多いため品質を維持しながら、複数機種を同時に開発しています。
安藤:DU011シリーズは、車の乗り心地を豊かにしてくれる機能を有しています。ただし車内環境を快適にしてくれる付加機能であることから、開発時期は“動く”、“止まる”といったクルマの基本性能の開発が進んでからとなり、搭載スペースや締結箇所に制限が多いなかで検討を行うことも多くあります。ECUを車両に取付るためECU本体ケースにはブラケットを付けていますが、車両モデルによって取付位置が異なることは当たり前で、その形状は一品一様になることも多いのです。
取付環境に応じた、ECU設計と検証
北里:DU011シリーズは、量産後でも設計変更ができる自由度を残した設計を取り入れており幅広いニーズに応えられることを心掛けている製品です。例えば、自動車のIoT化が進んだことでソフト制御を行うECUにおいてもサイバーセキュリティ対策が必要となってきています。ここ数年で大きくクローズアップされましたが、要求がでてくることを見越して、開発当初から実装が可能な部品選定を行っていました。先を見越して設計していたからこそ、開発途中で正式に仕様追加が決まっても、スムーズに仕様変更を製品へ落とし込みすることができています。
北里:回路変更が不要の場合、一般的には新規で回路を組む検討をした場合よりも検証項目を少なくすることができます。一方、製品単位でみれば変化点は少なくても、取付け位置が異なると周辺環境が変わります。環境が異なると、ノイズが製品に与える影響も異なるためECUの性能に差が生じる可能性があります。そのため取付け環境などについてもお客さんの仕様を詳細にヒヤリングすることを心掛けており、派生機種一つ一つにおいて検証項目を決定するようにしています。
品質を高めて安全な製品を提供するために、漫然と評価するのではなく、変化点検証を深堀して影響が少ない項目と多い項目でメリハリをつけ、特に影響の大きい項目においては多角的な判断ができるよう集中して安全性の確認を行っています。回路担当だけでなく、構造・ソフトの各担当者ともそれぞれの立場から議論を行い、お客さんとも検証項目について意識合わせを行うようにしています。
振動要件を満たすために、1か月の奮闘
安藤:取付位置が変わりブラケットに形状変更が入ると、振動試験などの耐久性試験は必ず実施しています。ただ、検証が十分に行えていないレイアウト初期のブラケット形状をそのまま試験すると、耐久性がもたない場合もあります。そうなると設計段階に後戻りとなってしまうので、まずはシミュレーションを行って強度の見極めを行っています。ある開発で、お客さんからもらったレイアウト初期の図面をもとにシミュレーションを行ったところ、振動要件を満足しないことがわかりました。振動要件をクリアするには、取り付ける締結点を増やしたり重心のバランスを考慮したりすると効果的ですが、形状変更を行うために取付環境のヒヤリングを行ったところ、スペースに変更するための余裕はほぼありませんでした。周辺環境を踏まえて要件に適した形状を検討し一旦整合をとりましたが、その形状を部材供給をしてくれるブラケットメーカーに共有したところ、そのままでは製造が難しく寸法公差を見直してほしいとリクエストが入りました。お客さんの仕様も満足しつつ、現場の意見も取り入れるとなると、なかなか形状は決まりませんでした。その後お客さんのもとに通い、見直した改善案をメーカーへ展開しては細部を調整するというやり取りを何度も繰り返し、約1か月間駆け回った結果、無事に仕様を固めることができました。ブラケット形状が定まったことで、この先にやるべきことの道筋がつき、ゴールまで駆け抜けることができました。
新機種開発に向けた新たなチャレンジ
このように、1機種ごとに検証を行いながら、同時進行するDU011シリーズの開発を進め、現在は20に迫るまで派生機種が増えています。両名が担当するDU011を更に進化させた新機種の開発もスタートしており、2026年の量産に向けて開発が進められています。
北里:現在10機種を超える開発機種を担当していますが、複数機種を同時に進行させるマネジメントができるように日々向き合っています。開発イベントが集中する時期が控えていますが、日程をコントロールしてスムーズに開発を進められるよう、お客さんや設計チームなど周囲を巻き込み、密にコミュニケーションをとり進めています。
安藤:技術者としての経験値を高めて、判断力を鍛えていきたいです。新しいことにもどんどんチャレンジして、お客さんの要望だけでなくプラスαの提案ができるようになっていきたいです。
編集後記
DU011シリーズは開発が完了すると図面が海を渡り、海外のグループ会社で製造されたのちに世界各国で走る自動車に搭載されています。当社の技術者が、日々進化する顧客のニーズに耳を傾けこだわりぬいて開発した製品は、世界中に暮らしやすい毎日を提供することにもつながっています。