"理想"を追求した新しい試み! 理想ダイオードIC「MF2003SV・MF2007SW 」

(左)
木村 俊介
技術開発センター 開発部第一IC開発課 
2004年入社。主に、IC製品の設計を行っており、その中で理想ダイオードICの1つであるNch-MOSFET 制御用の開発を行っている。

(左)
齊藤 和彦
技術開発センター 開発部部長付
2014年入社。理想ダイオードICシリーズの開発、新規IC開発案件の実現可能性の検討をおこなっている。また、量産導入後の製品立ち上げや、FAE(フィールドアプリケーションエンジニア)的な業務も担当している。

昨今、クルマの多機能化・高機能化が急速に進んでおり、車両に搭載されるECU(Electoric Control Unit)の消費電力が増加しています。ECU入力部の逆接続保護・逆電流防止用素子には従来ダイオードが使われてきましたが、電流増加によるダイオードの損失や発熱の増加が機器の放熱対策や小型化の妨げとなってしまいます。 そのような課題解決の鍵となるのが「理想ダイオードIC」です。理想ダイオードICへ置き換えることで、導通損失・温度上昇・実装面積を低減することが可能です。今回は、当社が新たにリリースした理想ダイオードIC「MF2003SV」と「MS2007SW」に注目していきます。

目次

理想ダイオードICとは?

MOSFET と組み合わせることで、ダイオードのような働きをするICです。従来のダイオードでは、大電流を流した時の損失や発熱が課題となっていました。これらを限りなくゼロに近づけることが出来る、まさに”理想的“なダイオードの働きをするICを「理想ダイオードIC」と言います。

初の理想ダイオードIC「MF2003SV」。開発のきっかけは?

齊藤:あるお客様から、車載バッテリー入力部分のECUに逆電流防止用として搭載しているMOSFETについて相談がありました。通常であれば逆電流防止にはダイオードを使用することが多いですが、ダイオードでは対応しきれない大電流が流れる場合はMOSFETを代用するケースがあります。このお客様も、大電流に対応するためにMOSFETを使用していたのですが、ある使用条件下では逆電流が流れてしまいお困りでした。

新電元はダイオードを主力製品のひとつとしており、ダイオードはバッテリー入力部分に使用されることが多く、これまでの採用実績から当社はバッテリー入力部分における技術ノウハウがありました。また、車載用途での実績も多数ある為、製品の信頼性や採用後のフォロー面でも自信があります

これらの当社の強みをお客様からも評価していただき、今回ご相談を受けました 。お客様の期待に応えるためにも当社の技術とノウハウを活かして“課題を解決できるデバイスを提供できるようにしなければならない”と思い、開発をスタートしました。

新しい試み。過去の実績と信頼から新しいものを提案。

齋藤:半導体製品は市場での実績がないとなかなか採用に至らない場合が多いです。特に、車載市場のような厳しい規格を設けられている用途ではその傾向が強く、理想ダイオードICのような新しい製品を提案するのは、通常かなりハードルが高いです。

はじめは、当社が得意とするダイオード、もしくはお客様が従来から使用していたMOSFETで問題解決する想定でいました。短期的な解決であればダイオード・MOSFETで顧客に提案するしかありませんが、MOSFETだけでは、バッテリー電圧が低下した際に逆電流が流れてしまい、お客様の困りごとを対策できませんし、逆電流対策が必要で大電流化が進めばダイオードを複数個使用しなければいけなくなってしまいます。よって、部品点数が多くなり小型化が難しくなります。大電流化が加速する今後の車載市場の動きに順応するには、ダイオードのような動作をするMOSFET内蔵のICをラインナップとして揃えるのが良いと判断し、開発の方向性が決まりました。

開発過程では、どのような機能で製品化すれば顧客のニーズにマッチするかを考えて、それを回路技術で実現するのに苦労しましたね。より大電流領域で損失 を減らすためにMOSFETのRonを下げようと色々な技術を試したり…。でも、そうするとコストがあがってしまったり…。最終的には製品スペックとコストのバランスをとりながら、お客様の要求を満たすことができ、MF2003SVはここで一旦開発完了しました。

新製品「MF2007SW」。繰り返す試作と「ピッ」という音…。

木村:2024年3月 から新たにMF2007SWが販売開始しました。

MF2003SVとMF2007SWの最大の違いは、MOSFETがパッケージの中にあるか、外にあるかの違いです。MF2003SVはMOSFETが一体型でダイオードと非常に近い使い方をすることができ、お客様が回路設計 をしやすいのが特長です。対して、MF2007SWはMOSFETを外付けする必要があります。その分、回路設計の自由度が高く 、より大電流に対応することができます。MF2003SVは5A以下、MF2007SWでは5A以上でメリット大です。

MF2007SWの開発では静電気耐量が車載要求仕様をなかなか満たせず、何度も試験を繰り返し苦労しました。静電気耐量の試験では、破壊時に「ピッ」という音で判定結果がわかるのですが、1回目の試作をスタートしてから約1年が経過した3回目。また不良を示す「ピッ」という音がするのではないかと不安に思いながら判定装置にサンプルをかけました。緊張の中、装置から音が発せられることはなく、合格がわかったときは非常に嬉しかったですね。

静電気以外にも車載用途で使用するためにはクリアしなければいけない規格が数多くあります。例えば、ISO7637-2では負サージがかかったときに正常に動作するか評価が必要ですが、新電元では電装製品も開発している為、評価に必要なサージ試験機がすぐに使えます。こういった恵まれた社内の評価環境もあって、なんとか開発を前へ押し進めることができました。

理想ダイオードICで、理想のモビリティ社会を実現します!

木村:理想ダイオードICを日系の半導体メーカーで製造している会社はごくわずかです。低圧だと存在するのですが、12V・24Vの車載用途で使用可能な理想ダイオードICを生産しているのは現状、新電元のみなのです。

齋藤:他社では開発していないからこそ、今回の理想ダイオードICの開発は付加価値が高く、長い間、車載市場に携わってきた新電元として挑戦する意義が大きかったです。

木村:結果として、世に先駆けた製品を開発することができ、新電元に新たなラインナップを加えることができました。

齋藤:(今回の開発を振り返り)プロセス開発部、品質保証部、製造部、知的財産部、そして営業部門など他部門からのサポートがあり、製品化まで辿りつけました。今後も、モビリティの電動化、自動化などが進んでくると、色々な課題が現れ、それを解決するデバイスが必要になると思いますので、早めに(市場トレンドに)気づいて 、世界中で使われる製品を開発していきたいですね。

木村:開発期間が長かったこともあり、量産化が「ようやく」というのが率直な感想です。今後、ON抵抗を更に下げた理想ダイオードICを開発していくなどの将来的構想もあるので、引き続き、社会のニーズに合ったものを開発していきたいと思っています。また、当社はダイオードを代表製品としている会社なので、長年培ってきた企業ブランドを守りながら、新たな試みである理想ダイオードICもアピールしていきたいです。

木村&齋藤が語る、理想ダイオードのココがスゴイ!

  • 木村&齋藤が語る、理想ダイオードのココがスゴイ!

POINT1.損失・温度上昇の低減【図1】
MOSFETを使用することで、発熱・損失低減が図れます。MF2003SVは、従来のダイオード※1と比べ導通損失を55%、温度上昇を37%低減しています。
※1:D15FR4ST 40V/15A(SBD) FRパッケージ品との比較

POINT2.お客様の回路設計に合わせて
MF2003SVはMOSFETが一体型でダイオードと非常に近い使い方をすることができ、お客様が回路設計をしやすいのが特長です。対して、MF2007SWはMOSFETを外付けする必要があります。その分、回路設計の自由度が高く、より大電流に対応することができます。

POINT3.車載用途でも使用可能
理想ダイオードICを日系の半導体メーカーはごくわずかです。12V・24Vの車載用途で使用可能な理想ダイオードICを生産しているのは現状、新電元のみです。

図1 損失・温度上昇の低減

編集後記

当社の新たな製品である「理想ダイオードIC」ですが、その背景には過去から創業以来、蓄積されてきた技術やノウハウ、お客様からの信頼があったからこそ開発することができました。結果、日本初となる車載対応の理想ダイオードICが生れました。目まぐるしいスピードで変化していく市場についていくだけでなく、牽引していく存在となる為、今後も新電元工業は世の中が必要とする製品や技術の実現にむけてチャレンジし続けます。

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本ページに記載されている内容は、2024年3月現在の情報です。お客様がご覧いただいた時点で、情報が変更(生産・販売が終了している場合や、価格、仕様など)されている可能性がありますのであらかじめご了承下さい。

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