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Q1.第16次中期経営計画(2022~2024年度)の2年目にあたる2023年度の業績振り返りを市場環境も含めてお聞かせください。

第16次中期経営計画では、経営方針を「長期ビジョンの実現に向けた基盤づくり」と定め、3つの主要テーマのもと施策を講じてきました。当計画2年目にあたる2023年度の売上高は1,023億円、営業利益は13億円と増収減益になりました。大幅減益に至った主な要因には、中国市場の低迷に伴うデバイス事業の売上減があげられます。しかしその一方で、電装事業は売上高を大きく伸ばし、セグメントごとのコントラストがはっきりしているのが2023年度業績の特徴と言えます。
セグメント別に振り返りますと、デバイス事業は、中国市場の影響に伴い主力製品の一つであるパッケージサイズの大きい「ブリッジダイオード」の落ち込みが激しく、それと連動する形で生産稼働も低下するなど、業績は大きく下振れる結果となりました。低迷した分野の一つである「産業機器」においては、顧客側の設備投資が期待通りに進展せず、もう一つの分野「家電」においても、エアコン需要が低調であったことと流通在庫の調整が続いたことが、売上減に拍車をかける形となりました。他方、「自動車」分野においては、2023年2Q以降に徐々に回復を見せるなど、大きな減収に一定の歯止めをかける役割を担いました。

次に、業績をけん引した電装事業においては、円安も加わったことで二輪・四輪の両市場において、売上高を大きく伸ばす結果となりました。二輪はインド及びインドネシアが好調で、なかでもインドは、ローカルメーカーにおいてEVシフトの流れが鮮明になるなど、大きなビジネス機会の輪郭が見え始めました。また四輪向けのDC/DCコンバータも、前期と比較して相当量の製品が出荷され、これもプラス要因の一つに加わりました。四輪向けDC/DCコンバータの生産は現在、岡部新電元が担当しており、設備はほぼフル稼働といった状況です。
「通信インフラ向け整流装置」と「EV用充電器」を主力分野とするエネルギーシステム事業においては、2022年に販売終了となった「パワーコンディショナ」の反動減に伴い減収となりましたが、損益面では改善しました。「EV用充電器」の売上高は増加傾向にあり、今後のEVの普及を見据え販売を拡大させてまいります。

― 2024年度の業績目標値を修正した理由を教えてください。

第16次中期経営計画の最終年度である2024年度は、売上高1,180億円、営業利益率6.6%を当初の業績目標値としておりました。しかしながら前述の通り、中国市場の低迷はしばらく続くことが想定され早期の回復は難しいこと、昨今におけるエネルギーコストや労務費、輸送費などの高騰に対し、価格転嫁だけでは利益確保が難しいこと、といった経営環境の変化に鑑み、2024年度の売上高を1,066億円、営業利益を25億円へと下方修正しました。

― 2020年に構造改革を実施しましたが、それでは不足だったのでしょうか。

コロナ禍に実施された前回の構造改革は、固定費の適正化等も当然その範囲に入っておりましたが、主として「価格競争力ある製品づくり」に重心を置いたものでした。デバイス事業で一例をあげますと、ウエハの大口径化、具体的には4インチから5インチ、あるいは6インチにインチアップすることで生産性の向上を図ること、などが該当します。その成果は、既に一定程度上がってきております。しかしながら、中国市場の低迷に伴い、「生産・物流・販売」の体制を再編成することでデバイス事業の採算性を向上させてまいります。

Q2. 中期経営計画における主要施策の進展状況をお聞かせください。

主要テーマ➀:稼ぐ体質づくり
本テーマの実現に向け2023年度は、各事業における原価低減活動をかなり強力に推進してきました。“事業毎に限定して実施を委ねると大きな成果が得られにくい”というこれまで経験則から、それぞれのベストプラクティスをグループ全体へと横展開し、一定の成果を得ることに成功しました。さらに、前述の「生産・物流・販売」における体制の再編成も加わることから、採算性はより高まると見込んでおります。
今年度においても、デバイス事業ではダイオードの開発スピードアップと競争力強化に向け、2024年4月より一部の開発部隊を秋田新電元に集中させ、製造現場と一体となった開発体制へと刷新しました。

主要テーマ②:伸長事業拡大の布石
中国市場の低迷に鑑みても、伸長事業を中心に事業領域を拡大させるための取り組みは非常に重要です。なかでもインド市場は、人口増加及び経済発展の観点からも伸びしろは大きく、当社にとって重要な市場です。
既に電装事業では、新電元インディアでローカルメーカー向けに二輪用PCU(パワーコントロールユニット)を製造・販売しています。この実績をアドバンテージに、現在当社では、電装事業とデバイス事業がタッグを組んだプロジェクトチームを組成し、インド市場における拡大戦略を固めているところです。その戦略の構想の一つに、インド国内のローカルメーカーに対し、デバイス製品も直接販売することがあります。これは、回路製品とデバイス製品を持つ新電元だからこそ可能な戦略といえ、日系メーカーだけでなくインド国内のローカルメーカーもターゲットとした販売拡大が狙えます。
伸びしろの大きいインドは、「メイク・イン・インディア」を国策としており、同国でビジネスを成功させる為には、インド国内での開発・製造体制の整備は必須です。当社では、デバイス開発からユニット開発までをインド国内にて一気通貫で行う体制を1~2年で整備していきます。また、知名度向上も非常に重要な要素です。当社では数年前からインドで開催されるモビリティ関連の展示会に毎年出展してきました。直近の展示会でのアンケート調査では、当社の知名度は50%程度でしたので、さらなる知名度向上に向け、経営資源を投下していく予定です。

主要テーマ③:温室効果ガス排出量削減分野へのリソース配分
3つ目の本テーマは、当社の生業と強く相関することから、デバイス事業、電装事業、エネルギーシステム事業それぞれに共通して、環境配慮型製品の創出および事業活動に関わる環境負荷の低減等に努め、社会的課題の解決に貢献してまいります。

Q3. 実効性あるガバナンス体制の構築に向けた取り組みをお聞かせください。

当社の取締役会は2名の社外取締役を含めた6名の取締役で、監査役会は監査役3名で、内2名は社外監査役で構成しております。取締役会の実効性評価に関しては、例年アンケート調査を実施し、その結果をコーポレートガバナンス報告書にて開示してきました。2023年度の調査においては2022年度よりポイントが大きく向上したことから、建設的な議論がなされたものとポジティブに受け止めております。社外取締役を含め、議論が活発になされており、お互いの考えをフランクに主張する場が形成され始めてきたと感じています。

この背景には、現状の取締役会の在り様を社外取締役及び社外監査役から直接聞くことを目的とした「オフサイトミーティング」を前年度は2回設けたことが要因としてあるのかもしれません。主張された様々な意見に関しては、一つ一つ社内取締役に担当配分し、現在、実行に移すべくブラッシュアップを図っております。これ以外にも、グループ全体のガバナンスという側面も含めて国内外のグループ会社に訪問し、各現場の経営管理状況の確認はもとより、各現場活動の力強さや意気込みも実感することができました。今後も、風通しが良く、更にコミュニケーションの活性化が図れるよう心掛け、行動していきたいと思っています。

Q4.PBR1倍割れ対策と株主還元についての考え方をお聞かせください。

PBR1倍割れに関しては、非常に重要な経営課題として受け止めております。現状の当社グループの損益計算書を見ても明らかな通り、段階利益での損益は減少してきており、収益力そのもの、いわゆる「稼ぐ力」が全体的に弱ってきています。企業価値向上の第一命題を稼ぐ力の強化と捉え、「デバイス事業の黒字化」及び「インド市場戦略の全社推進」に2024年度は集中し、2025年度から始まる次の中期経営計画へと繋ぐ道筋をつけてまいります。
2024年度の業績予想は、売上高を1,066億円、営業利益は25億円としました。また、2024年度の設備投資は2023年度の46億円に対して、79億円へ大幅に増額した計画としています。これは成長分野への重点投資、例えば、デバイス事業では新たなパッケージ製造設備の新設、電装事業ではPCUや市場規模を見越した拡大投資など、を意味しております。実際に取締役会においても、稼ぐ力の強化には積極的に投資していくことに支持を得ています。また、資本コストや株価を意識した経営も必須と考え、2025年度からは事業毎にROIC指標を設定し、KPIを通じた事業マネジメントに切り換えていく予定です。
以上の通り、稼ぐ力の強化とROIC経営を通じて企業価値向上を図り、PBRの改善を果たすとともに、2023年度に引き続き2024年度も130円の配当を予定しています。今後も、株主の皆様に対する利益還元を経営の重要課題のひとつと捉え、安定的な配当を行っていきたいと考えております。

Q5.人的資本とイノベーションに対する考えをお聞かせください。

新電元グループの人的資本経営の基本的な考えとしては、多様な従業員が在籍しているという認識のもと、「一人ひとりの働きがい」「自発的な能力開発・発揮」「個人の知恵と知恵の融合」を、それぞれが有機的に結びつき、イノベーションを起こしていくことで新しい価値が生まれ、持続的な成長に繋がるものと考えております。そういう意味において当社の人財戦略としては、従業員個々の人の成長とそれに伴う組織の活性化を、目標に沿って実行していくことが肝要です。
当社の人的資本経営の基本構造は、「人権尊重」「安全と健康」が基盤にあり、その基盤の上に「人財育成」「多様な人財の活躍」「柔軟な働き方の拡充」といった人財戦略の主要な課題で構成されています。この5つの枠組みをコントロールしていくことを人的資本経営の基本としています。コロナ禍でコミュニケーションが薄れつつありましたので、今後はコミュニケーションの活性化を通じて、5つの枠組みを推進していくつもりです。
また進捗状況の把握については、2022年から毎年社員向けにアンケートを実施していますので、その指数化を通じて全体傾向を把握し、取締役会で共有し更なるブラッシュアップに努めてまいります。

Q6. ステークホルダーの皆様へのメッセ―ジをお願いします。

新電元グループでは、長期ビジョン2030において「ステークホルダーから必要とされるパワーエレクトロニクスカンパニー」を旗印に掲げています。その実現に向け、デバイス事業の採算を軌道に乗せ、インド市場も含めた「モビリティ分野」「EV分野」の拡大戦略を一気呵成に実行していくことを、2030年に向けた最重要テーマと考えております。
一例をあげますと、EV用急速充電器「MITUS(ミタス)」という、ブランド製品がございます。2025年の販売を予定しており、今後のEVの普及に合わせて着実に販売を拡大させていくことが重要です。またEV用充電器の一環で、非接触のワイヤレス充電器に関しても、当社グループではEVワイヤレス給電協議会の会員として参画し、新たな事業の絵姿を描けるよう取り組んでおります。いずれにしても、「環境」「モビリティ」「EV」が当社の成長分野におけるキーワードであり、当社保有技術からどういう価値を生み出すか、を常にコミュニケーションしながら、将来の事業ポートフォリオの構築に努めてまいります。
最後に会社の運営という観点から述べますと、円滑なコミュニケーションの醸成、あるいはそれによって出来上がる組織の活性化こそが、価値を創造する上で最も重要な要素だと考えております。前年度から組織力を高めるうえで「調和」という言葉を大事にしています。新電元グループを一つのオーケストラと例えたときに、ある楽曲を披露するにも、一人の演奏者が違う方向を向いているだけで、求めている完成度とは程遠いものになってしまいます。「調和」した組織運営は社長の専権業務として取り組み、その成果は株主・投資家をはじめ、社員、ご家族、地域住民などのステークホルダーの皆様に貢献できるよう取り組んでまいります。
中長期的な視点で新電元グループの企業価値を見て頂き、今後とも一層の力強いご支援とご助言を賜りますよう、お願い申し上げます。

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