トップインタビュー

Q1. 2023年4月に新電元工業株式会社(以降、新電元)の代表取締役社長に就任されました。ご自身の信条や今後の抱負をお聞かせください。

A.ステークホルダーの話をよく聴いて、「顧客ファースト」に向けた最適解をグループ全員で探し出し、組織一体となった「調和」のとれた経営をして参ります。

私は1985年に新電元に入社し、今年で39年目となります。半導体関係の営業部門から始まり、本社の人事および企画といったスタッフ部門、電子デバイス事業本部および営業本部の執行役員に至るまで、「営業」「スタッフ」「経営マネジメント」を3分の1ずつ経験して参りました。また、シンガポールとマレーシアにトータルで4年半の駐在経験も有しております。
入社後、半導体の営業に10年以上携わったことで、基本的には「顧客ファースト」を信条としており、また会社経営においては基幹となる事業とその基盤となる現場を重視した事業活動に注力していくつもりです。その一方で、全社的な合意を得ることの大変さも、スタッフ部門での経験から十二分に理解しているつもりです。「調和」をキーワードとして、あらゆるステークホルダーの意見や期待を把握し、フラットな組織運営、自由闊達な組織文化が醸成される会社経営に努めて参ります。
今後は、当社グループの販売・生産の全拠点を視察し、現場の生の声を聴きつつ、求心力を高めていこうと考えております。

Q2. 「10年後の新電元」がどのような会社になっているかをお聞かせください。

A.環境貢献製品の拡販を通じて、長期ビジョン2030で掲げる「ステークホルダーから必要とされるパワーエレクトロニクスカンパニー」を実現します。

当社グループでは、2030年のありたい姿を「革新的な技術によって地球環境に配慮した先進的なソリューションを生み出して持続可能な社会に貢献し、あらゆるステークホルダーから必要とされ続けるパワーエレクトロニクスカンパニー」と定めています。この背景には、当社が保有するパワーエレクトロニクス技術を社会課題の解決にどのように活かすかと考えたとき、環境分野での貢献が事業特性を考えた上で最適であり、競争力を有した製品群を拡充することは、お客様をはじめ社会に広く評価される筈、という考えが御座います。
現在の当社の環境貢献製品は、デバイス事業では高効率な素子(MOSFET)やパワーモジュールがあり、電装事業ではEV用のパワーコントロールユニット(PCU)やDC/DCコンバータ、また、最も大きな電源を扱うエネルギーシステム事業では、市場規模の拡大が見込まれるEV用の急速充電器や普通充電器、などが挙げられます。
これら製品群の技術的な優位性や独自性、希少性などをアピールしながら事業規模の拡大を図っていきます。そして、これらの製品群を基幹ポートフォリオに組み替えていくことで、2030年のありたい姿を実現して参ります。

Q3. 第16次中期経営計画(2022~2024年度)初年度における主要施策の進展および業績をお聞かせください。

A.長期ビジョン2030の実現に必要な「基盤づくり」は、3つの主要テーマに沿って一定の成果を収めたものの、業績は計画未達となりました。

第16次中期経営計画では、経営方針を「長期ビジョンの実現に向けた基盤づくり」と定め、主要テーマごとに施策を講じております。

主要テーマ①: 稼ぐ体質づくり
単なる原価低減に留まらず、「設計の上流から下流の生産、輸送までのトータルコストを、どのようにミニマイズしていくか」に主眼を置いています。現在は、バリューチェーンのプロセスを一つ一つ丁寧に検証している段階で、着々と進めています。また、当社の長く使っていただいている製品に関しては、モノづくりの仕組みそのものを見直し、生産性向上を図っております。

主要テーマ②: 伸長事業拡大の布石
市場での販売の出遅れを回避する為、製品開発のスピードを重視してきました。その結果、主力市場である車載関係の戦略製品―パワー半導体系デバイスのMOSFET、パワーモジュール、二輪車用PCU、EV用のDC/DCコンバータ、急速充電器など―が、ここ数年間で積み上がってきました。伸長事業を構成するこれら戦略製品において、技術的な確立と拡販体制の整備にまで辿り着けたことは、一つの成果と言えます。

主要テーマ③: 温室効果ガス排出量削減分野へのリソース配分
エネルギー効率を追求した当社が創り出す製品は、それ自体が環境貢献に則していることから、伸長事業を中心に技術者などの経営資源の配分を重点的に進めています。また、ESG関連にも適切に資源配分を進めているところです。

このように、「長期ビジョン2030」の実現に向けた「基盤づくり」は順調に進めています。
しかしながら2022年度の業績に関しては、部材調達難を伴うお客様側の生産調整による当社製造ラインの稼働率の低下や中国の景気後退を受け、特にデバイス事業の業績は大幅に悪化しました。
利益面に関しては、原材料価格やエネルギー価格の高騰の影響を大きく受け、お客様に対して販売価格の適正化を要請したものの、100%転嫁できるまでには至っていないのが現状です。また、電気料金の高騰が電気使用量の大きい半導体工場にも影響を大きく及ぼしており、特にデバイス事業の損益は厳しい状況です。これは現在も続いており、その対策を進めているところです。
このような結果、2022年度の売上高は101,007百万円、営業利益3,621百万円、親会社株主に帰属する当期純利益1,644百万円と、計画未達となりました。

Q5. 今回の経営体制の刷新についてご説明ください。

A.「長期ビジョン2030」を強力に推進すること、並びにスキルマトリックスのバランスを考慮し、経営体制を刷新しました。

「長期ビジョン2030」を強力に推進していくことが、今回の社長交代の目的です。私のこれまでの経験や人脈を活かし、今回与えられた使命を全うできればと考えております。中期経営計画の2年目での交代となりましたが、基本的な方向性は前社長の方針を踏襲し、計画の達成を目指してまいります。
また、新たな社外取締役2名のうち、西山氏は企業経営の経験者です。豊富な経験をお持ちの方ですので、知見を活かした切り口で様々な助言を頂けるものと期待しています。北代氏は、法律の専門家です。昨今、法律的なリスクが様々な場面で高まっています。専門家の観点からどのような対処が妥当かなど、法律の解釈を取締役の立場でタイムリーに我々に与えてくれることを期待しています。
スキルマトリックス表を全体的に俯瞰し、社内の取締役の交代も含め、全体的なバランスは十分取れていると、評価しております。

Q6. PBR1倍割れ、および株主還元についての考え方を教えてください。

A.伸長事業を中心とした利益を伴う「事業成長」と、最適な資本構成を考慮した「資本効率」を徹底し、PBR1倍以上を目指します。

PBR1倍割れについては、避けては通れない重要な課題だと認識しております。株式市場から適正な評価を受ける為には、「企業価値の最大化をどう図るか」を本質として捉え、その為の一つは「事業成長」、これを常に追求していくことが不可欠です。それともう一つは、「資本効率」をどのように高めるか、この2点が重要な鍵だと考えています。
先述の通り、当社の成長を牽引する新たな製品はラインアップされつつありますので、これらの戦略製品を着実に市場に受け入れられるよう投入し、事業拡大を図るとともに、拡大に伴う利益もしっかりと獲得していくことが重要なポイントです。本中計の主要テーマとして「稼ぐ体質づくり」を掲げているように、「トータルコストをミニマイズする原価低減」によって利益を確保できる体制の構築や販売価格の適正化を図るなど、基本的な施策を愚直に且つ徹底して推し進めることが不可欠です。
他方、財務資本の観点からは、伸長事業などに効率よく配分することで収益性を向上させ、最適な資本構成を意識した財務基盤の確立と株主還元を図ることで、ROEやROAといった経営指標が適切に向上し、その結果PBRも1倍以上に評価されていくものと考えております。

Q7. 環境および人的資本に対する新電元の取り組みをお聞かせください。

A.スコープ3の開示による社会的インパクトの提示とコミュニケーションの活性化を通じて、「朝霞事業所」をイノベーションの場に醸成していきます。

当社は、2023年にサスティナビリティ基本方針を策定しました。その中において、企業ミッションの実践とともに、ESG経営を積極的に推進することを示しております。またSDGsに関しては、4つのマテリアリティを選定し、活動の実施と結果について積極的な情報開示に努めています。

環境(E):エネルギー効率等の観点から気候変動対策に繋がる環境貢献製品―これは当社事業そのものですが―、これら製品群の製造と市場投入を着実に推進していくことが挙げられます。特にCO2排出削減に関して、当社の製品群が「社会にどの程度インパクトが与えているか」を明らかにする必要があり、その為にスコープ3を測定し、今後、情報開示していくつもりです。 もう一つは、気候変動に伴う災害リスクに対応する為、事業継続マネジメント(BCM)の訓練や安否確認などの仕組みの整備に努めています。その他、TCFDの開示やSBT認証などの取得、或いは国連グローバルコンパクトへの参加表明など、精力的に進めています。

人的資本(S):当社グループの人財に対しては、「安心・安全」といった労働環境の整備を第一義に進めています。コロナ禍で労働環境に大きな変化が生じましたが、フレックスタイム勤務やリモートワークなどの制度拡充を通じて、自由な環境で働ける仕組みを構築してきました。 その一方で、コロナ禍で失われた「従業員同士の直接的なコミュニケーション(対話)」の機会と時間を、今後はもっと醸成していく必要があると認識しております。2021年に完成した朝霞事業所を上手く活用して、従業員にとって「調和のとれた1つの家」のように感じられる職場環境にしたいと思っています。

何れにしろ、新電元本体に関しては、「モノを造るよりは、知的な財産を生み出すこと」に軸足を置いていますので、その能力の低下は、新電元の中核能力の欠落を意味します。新電元にとって人財は生命線です。そして、「従業員同士の直接的なコミュニケーション(対話)」はイノベーションを起こす組織文化を醸成させ、ひいてはお客様・社会の期待に応えることに繋がりますので、社長の仕事としてしっかりと取り組んで参ります。

Q8. 株主・投資家へのメッセージをお願いします。

A.ステークホルダーへのソリューションとリターンを常に意識した行動を通じて、「長期ビジョン2030」の実現に一歩一歩近づけて参ります。

新電元グループを取り巻く経営環境は、非常に厳しく不透明感も御座いますが、「長期ビジョン2030」の実現に向けて、次世代製品の創出や既存製品のさらなる拡充を確実に実行していくことで、事業の拡大を一歩一歩進めていきます。その過程でポイントとなるのは、様々なステークホルダーの期待に対して、「どのようなソリューションやリターンの提供が可能か」を常に考えて行動することです。この考えが、新電元グループの従業員全体に浸透していくことで、「長期ビジョン2030」の実現にも繋がりますので、ステークホルダーの皆様と直接的にコミュニケーション(対話)する機会を増やしていきたいと考えております。
株主・投資家の皆様におかれましては、中長期的な視点で新電元グループの企業価値を見て頂き、今後とも一層の力強いご支援とご助言を賜りますよう、お願い申し上げます。

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